LM * The Letters about a MOVIE.

映画に関する君への手紙。

容疑者 室井慎次

映画パンフレット 「容疑者 室井慎次」監督:君塚良一 出演:柳葉敏郎、田中麗奈 容疑者 室井慎次 シナリオガイドブック 容疑者 室井慎次 [DVD]

前略、元気ですか?
凄い映画を見てしまいました。衝撃的。

交渉人 真下正義』に続いて、矢継ぎ早の公開、ということで、そういう戦略だったんだろうと思うんだけど、どうしたんだろうか?レインボーブリッジに金を使いすぎたのか、『電車男』に予算を取られてしまったのか。

いや、もしかしたら、ホントは作りたくなかったのかも。この映画。

交渉人 真下正義』の方は見ていないんだけど、この『室井~』を見て思いました。『真下~』も見ておくべきだったかも・・・

こんなに凄いものを作ってしまうとは、さすがテレビ屋さん。

何がそんなに凄いのか、と言うと、それは映像。さすが、映画は総合芸術と言われるだけある。映像、音楽、ストーリー、どれかは手を抜いても良いんだよ。

ポイントは、いかに画面に映りこむ人数を減らすか、だな。

他に誰もいない道、他に誰もいない海岸、誰もいない駐車場(トンネルだったかな)。他に誰もいない陸上競技場。観覧車の中。

誰もいない夜の街や海岸を、室井が一人行くところなんて、まるでカラオケビデオの様な風情。「みちのく一人旅」を歌い出したらどうしよう・・・、とちょっと緊張してしまった。

弁護士の部屋の違和感も凄い。なんじゃあの無意味な広さは?そして、無意味にでかいテーブル!

んでもって、警視庁だか警察庁だか忘れたけど、お偉いさんがいる部屋。あれはなんで工事中なのかな。そんなシーン、今までのシリーズであったのか?

それから、画面の半分程を占めるようなアップを、どんどん暗くしていって、ついには、闇に埋まる顔、という手法もあります。レンブラントを参考にしたのか。斬新だ~。

いや、逆にたくさん人が映るシーンもあるんだよ。大挙して押し寄せる記者とか。記者が大挙して押し寄せると、その後ろは移さなくて良いんだな。

さらに、新宿署(だったかな?)に設けられた捜査本部。うじゃうじゃと群がる刑事達。刑事がうじゃうじゃ群がると、やっぱり後ろがどうなってるか、どうでも良くなるんだな。

雪が降っていると、窓の外に何が映っているか、問題にならない、というのもあります。

もう一つのポイントは、いかにセットを安くあげるか、というところにあったというワケ。

というわけで、映像に対するこだわりの無さに、思わず感心してしまいました。凄い。さすが、テレビ屋さん。
?テレビ屋さんは映像にこだわらなくて良いのか?よくわからん。

室井慎二が逮捕される、というアイデアだけが、そこにある。

それをどう味付けするのか、というのが腕の見せ所なんだけど、この映画の白眉は、それをどう、味付けせずに済ませるか、というところにある、と思いました。

作り手としての矜持の問題なんだろうか。

もう、映画は作らなくても良いや、と思っているのかも知れないね。この監督さん。それはそれで、残念な気もするんだけど。

製作者側に言いたい事は、「一度勇気を捨ててしまうと二度とそれは取り戻せない(劇中のセリフ)」。しかし、ぜひ取り戻していい作品を作って欲しいです。
■EVERSMILE : 映画『容疑者 室井慎次

まったく同感。