LM * The Letters about a MOVIE.

映画に関する君への手紙。

ブラス! BRASSED OFF

ブラス! [DVD]

前略、元気ですか?
この間、君に手紙を書くようになってから、もう10年が過ぎたという話をしたけど、それで、時の流れとか時代とかそういったことを考えていました。この10年の時の流れの中で、僕達が得たものは何なのだろう、そして失ったものは何なんだろう、もしかしたら、時の流れに取り残されていないだろうか、なんて。そうしたら、なんとなくこの映画を見返したくなって、DVDを出してきて、改めて見てみました。

この映画、はっきり言ってたいした映画じゃないんだよね。ところどころ、B級というか、登場人物がステレオタイプで興ざめするというか、そんな感じがすごくするんだけど、でも、音楽はすごく良いんです。ところが、音楽が良いだけの映画かと言うとそうでもない。それで何回も見返してしまうんだ。

閉鎖されるかどうかの瀬戸際にあるイギリスの炭鉱の町の話です。この町で、末端の鉱夫達がやっているブラスバンド、伝統もあり、全国コンクールで上位に入る可能性のある素晴らしいバンドだけれども、メンバーである鉱夫達の生活は苦しく、炭鉱が閉鎖されたら、仕事も無くなってしまうという状況。

そこにやってくる、楽器の腕前も素晴らしいヒロイン。このヒロインは、実は、炭鉱を運営する会社のホワイトカラーなんだけど、この町の出身でもあり、炭鉱の継続を望んでいる。

というところで、このヒロインが登場したことで、炭鉱の行く末も、ブラスバンドの未来も、ミラクルが起きて好転する、というストーリーなのか?と思ってしまう。そんな、安直な話かよ、この映画見て失敗したな、と思ってしまうんだけど、そうはならならいんだ。

このあたりが、この映画の微妙なところで、ヒロインのブラスバンドへの登場の仕方や、仕事にかかわる場面の描き方とか、仕事上の上司である経営層の描き方が、ちょっと甘いというか、分からない人が想像で描いている感がすごくするので、なんだか安易な展開の映画なのかと思わせてしまうんだよね。

だけど、事態は全く好転せず、バンドメンバーのピエロのシーンは、ここでは詳しく書かないけど、圧倒的に悲劇です。やりきれない現実、というものを思い出させてくれます。これは、この映画の素晴らしいところだね。

それから、この映画のもうひとつの素晴らしいところは、演奏シーンです。これは文句なし。家のテレビで見ているのがくやしい、なんで今ここが、大きなスクリーンがあって音響の良い映画館じゃないんだ!と思います。

そして最後、コンクールで賞をとった後のスピーチ、「彼らは素晴らしい演奏をします。でも、何の意味が?」ということばは、現実のやりきれなさ、というものを、ものすごく感じさせてくれます。


時間の流れの中で、変わっていくものと変わらないもの、変わっていくことは良いことでもあるけれども、その裏には、やりきれない現実というものがあったりもする。改めてこの映画を見て、君のこの10年間にも、変化したものや、その変化の中で、やりきれなさを感じるようなことがあっただろうか、そんなことを思いました。

それでは、また手紙を書きます。