LM * The Letters about a MOVIE.

映画に関する君への手紙。

大丈夫であるように - Cocco 終らない旅 -

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前略、元気ですか?今日も映画を見に行って来ました。

例によって、どんな映画か、事前に調べたりせず、音楽関係の映画ということで、見る映画を決めました。

上映時間がちょっと遅かったので、きっとすいているだろうと思って行ったけれど、あと2席しかありません、とのこと。危ないところでした。

この映画は、歌手 Coccoのドキュメンタリーです。『強く儚い者たち』とか、君も知っているでしょ?前にカラオケで歌っていたよね。

子供の頃、僕は、大人は正しいことをしているんだろう、と思っていました。でも、この世の中は、そんな子供の想像とは異なっています。あらゆる事が複雑に絡み合っていて、それをほどくことができない。一方から見たら正しいと思えることも、別の方向から見たら、間違っています。それに僕達が、何気なく生活し、生存している、それだけで、森林破壊や温暖化は進んで行くのです。

そんな事が、だんだん分かってきて、こんな状況じゃあ、自分が正しいことをしている、と思うことができる日なんて、永遠に来ないんじゃないか、と思いました。そんな風に、自分のしている事を、信じることが出来ないとしたら、いったい僕達は、どうしたら生きていくことが出来るんでしょか。それが不安でした。

歌を作って歌うことは、自分の周りや世の中の出来事や、それによって起こってくる感情から、何かをすくい取って伝える、そんな作業なのかと思っていました。その人というフィルターを通すことで、何かが選ばれ、選ばれなかったものが伝えられることは無い、かも知れない。

でも、Coccoは違います。何かをすくい取ってはいない。全部をそのまま伝えようとしている、そんな風に思いました。

映画の中で、Coccoは、青森に住む女性から手紙をもらい、六ヶ所村のことを知ります。そして、ツアーで青森を訪れ、思いを必死で伝えようとします。

沖縄は、米軍基地の問題など、どうしようも無い状況にある。自分の親たちも苦しんで来たし、自分達も苦しんで来た。だけど、どうしようも無くて、諦めに支配されてしまう様な状態で、そんな中で、自分は沖縄の外の人たちに、自分達のことを知ってもらいたいと思ってきた、自分たちを助けてよ、と思ってきた。今まで沖縄にいてそう思って来たけど、六ヶ所村のことを知り、自分達以外にも、苦しんでいる人達がいる事を知った、というのです。

そして、歌います。彼女の歌声はとても美しく、その場の空気を自分の想いで満たそうとしているかの様でした。

彼女のメッセージは、生きろ!生きろ!生きろ!でした。こんな世の中だから、自分に自信が持てない、どう生きたら良いのか分からない、ではなく、こんな世の中だという事を知ったから、そんな世の中を生きる人と触れ合えたから、だから生きろ!生きろ!生きろ!

そんな彼女の在り方には、とても心を揺さぶられました。その通りなのかも知れません。こんなに複雑で、何が正しいか分からない世の中で、どう生きて良いのか分からない、というのは、自分の前に広がる膨大な世界に、尻込みしているだけなんだよね。その心細さの中で僕達は、少しずつ生きていかなければいけないんだ。

でも、身を削り、そんなメッセージを伝えようとしているCoccoの様子には少し心配になります。何かを選び取っていくのなら、何を選ぶのか、ということが問題になります。そうすれば、そこに、戦略が生まれてくる筈だと思います。でも、Coccoには、それが無い。

でも、いろいろなことを知り、経験してどんどん生きる理由が増えていく、とCoccoは言います。一生続けていくことだから、どうしたら、一生続けられるのか考える、とも。そうやって、生きる理由を一つ一つ集めて、歌い続けて欲しいな、とそう思いました。

『大丈夫であるように』というのは、Coccoがライブに来たお客さんに向けて言った言葉でした。この映画に関わった人々がどう思っているのか分かりませんが、少なくとも僕にとっては、これからのCoccoに対する願いの言葉でもある、と思いました。『大丈夫であるように』

では、また手紙を書きます。
いつか、一緒に映画を見に行こう。