LM * The Letters about a MOVIE.

映画に関する君への手紙。

YOUNG@HEART

f:id:miyadaic:20151106040043p:plain

前略、元気ですか?先月の末、久し振りに、映画を見てきました。こうして映画の事を書くのは随分久し振りだね。

11月末とは言え、街は、もうすっかりクリスマスでした。その日行った、映画館が入っているビル、その前にも、大きなツリーが立っています。そして、若い女性のア・カペラ グループがクリスマス・ソングを歌っていました。

でもね、その様子といったら、なんだか寂しくなるようでした。もちろん、彼女達の歌声は、とてもきれいなんだけど、なぜか、メンバー全員、コートを着込み、襟をぴったり合わせて、ニコリともせずに歌っているんだ。

その、とても寒そうで、かつ、まったく観客を気にしていない様子に、思わず、今年は不況だからなぁ、なんて思ってしまいました。なんだか、世の中の先行きの暗さを暗示している様だ、とかね。

そんな、どこか寒々としたライブもそこそこに、目的の映画館に入って見た映画が「YOUNG@HEART」です。

この映画、内容を良く知らずに見に行ったんだ。結構、音楽映画が好きだから、少し時間が空いて、映画でも見ようかな、と思った時、上映されている映画の中から、音楽が出てきそうな映画を選んで見る、ということを、良くします。今回もそんな感じでこの映画を選んだというわけ。

そんな時は、だいたい、音楽の楽しさ!を感じさせてくれる様な映画を期待しているわけで、その通りの結果に大満足する時もあれば、そうでない時もあります。今回は、音楽の楽しさだけを強く感じさせる様な、そんな能天気な映画じゃあ、全然なかったんだ。

この映画は、YOUNG@HEART という、アメリカの音楽サークル?というか、コーラスグループのドキュメントなんだけど、このグループのメンバーは、70歳以上の、おじいちゃん、おばあちゃん達なんだ。

このおじいちゃん、おばあちゃん達が、パンクだのロックだのソウルだのを、歌うわけ。その様子はとてもコミカルだし、楽しい。海外公演をしたりもしています。そして、ドキュメントの合間に、プロモーション・ビデオが流れたりしていました。そのビデオも、とても楽しかったよ。

でも、実は僕は、この映画を見ながら、どこか乗り切れないものを感じていました。それが、何なのか考えて見るとね…。

このグループには、音楽監督みたいな若い(と言っても40代ぐらいか?)人が1人います。公演で、誰がどんな歌を歌うかは彼が決めていて、今度はこれを歌ってもらうぞぉ!と、曲をみんなに聴かせて、そうすると、最初は拒否反応があったりとかするんだ。で、そこから練習を重ねて公演する、ということになる。

つまり、参加している、おじいちゃん、おばあちゃん達が、自分達で選んだ曲を歌う、という場面が一度も出てこないんだよね。おじいちゃん、おばあちゃん達のインタビューでも、このグループで公演することが好き、とかそういう言葉は出てくるけど、純粋に音楽が好き、とか歌うことが好き、ということを表す言葉は出てこない。

だから、このグループで歌うことが好き、と言っても、そこには、次に歌う曲を選んでもらって…、というステップが前提として組み込まれている様に感じられたんだよね。そういうのって、僕が思う、音楽の楽しさ、とはちょっと違うなぁ、と思うんだ。

もちろん、この映画では、そう見えたっていうだけなのかも知れないよ。実際には、自分たちで曲を選んだりしているかも知れない。でも、今回の映画にはそういうところが映らなかった、というだけで。でも、もしそうだったら、そんなところをこそ、見せて欲しかったなぁ、と思いました。

ところで、この映画には、もう一つ、とても重要なことがあります。それは、メンバーが、70代、80代といった人達だけに、病気を持っている人もたくさんいるし、死がとても身近だということです。数日前まで、一緒に練習していた人が亡くなってしまう、ということが普通に起こる様です。

このことと、さっきの、選んでもらった歌を歌っているだけ、つまり、そういう機会を自分で選んだのではなく、与えられただけなのか、ということを合わせて考えると、僕達、現代の人間にとって、幸せって、どんな事なんだろうな、と思いました。

さて、映画が終わってそんな事を考えながら、映画館から出てくると、さっきのア・カペラグループがまた歌っています。今度は、コートじゃなくて、みんな、かわいい衣装です。歌声も、歌っている様子も、さっきと違って、とても楽しそうだし、とても素敵です。

MCを良く聴いてみると、僕が映画が始まる前に見たのは、彼女達のリハーサルだったんだね。リハーサルと違って、衣装はコートより寒そうだったけど、キュートで力強く、楽しげで、少なくとも、彼女達は、自分達で歌うことを選んで歌っている、と信じさせてくれます。

そんな様子と、彼女達のクリスマス・ソングは、少しだけ、僕の胸を暖かくしてくれました。やっぱり、音楽っていいよね。

では、また手紙を書きます。
そして、いつか、一緒に映画を見にいこう。

f:id:miyadaic:20151106041149p:plain