LM * The Letters about a MOVIE.

映画に関する君への手紙。

マイ・ラブ Toute une Vie

Toute une vie

前略、元気ですか?
久し振りです。
なんだか、僕は相変わらずバタバタして、なかなか君に手紙を書くこともできず、もどかしい毎日です。君はどうしていますか?

最近、久し振りに、ものすごく良かった!と思う映画を見ました。

昔、僕が通っていた、学校の近くに、 『Il y a』 という名前のお店があったんだよね。最初は、なんのことだか分からなかったんだけど、第2外国語だったフランス語の授業を受けていて、これが、英語で言うと、『There is』 なんだって分かったんだ。『ありますっ』 って感じかな。

突然、何のハナシ?

って思っているかも知れないね。別に意味は無いんだ。今日はフランスの映画の事を書こうと思っているので、フランス語の話をしてみただけさ…。お店の名前が『ありますっ』 って、ちょっとだけオモシロイ、とその時思ったんだけど。

以前、『出逢えそうで出逢えない映画』 のことを、書いたことがあったよね。

実は、もうひとつ、出会えそうで、出会えない映画があるんだ。

だけど、僕はまだ見たことがありません。タイトルも分からない。

学生時代に、映画雑誌の記事か、映画本か何かか、とにかく、何かで、ある映画の紹介記事を読んだんだ。

 

 

舞台はヨーロッパ。今日書いた映画と同じ様に、出会えそうで出会えない男女に、観客がハラハラ、ドキドキさせられる、と書いてあって、それを読んで、「この映画、見たい!」と思った、という記憶があるんだけど、全然分かりません。男性監督で、横文字の名前だった・・・

君は知らないかな?これだけの手がかりじゃ無理か。

→ http://miyadaic.hatenablog.com/entry/2005/05/15/074327

 

 

その後、図書館へ行って、この記事を探し出したわけです。覚えてる?

→ http://miyadaic.hatenablog.com/entry/2005/05/15/174659

というわけで、今日はこの映画の話です。DVD化されていないらしく、最近、ネットでビデオを買って、やっと見たんだ。クロード・ルルーシュという監督の、『マイ・ラブ』という映画です。

でもね、前に書いた、僕の印象に残っていた、この映画についての記事と較べると、なんだか微妙に内容が違っている気がするんだよね。もしかしたら、別の編集が存在するのかも知れない、と思います。今回僕が手に入れたビデオには、『全長版』と書いてあるので、そうではない版が存在して、あの記事を書いた人はそれを見たのかなあ。

だから、映画の内容の方は、あの記事を読んで想像していたのとは、だいぶ違っていたよ。

ただひたすらにスレ違うこの男女を、「なんとか早く出逢わせたい」と運命の女神になった気さえするのも不思議である。

 ラストシーンでやっとお互いの目と目が合い、「こんにちは」と初めて言葉を交わす二人を見て、誰がこれを「偶然の出会い」と想うだろう。ここまで観てきた誰もが、これを”もったいないお仕組み”と想うに違いない。

とあって、『出逢い』がテーマ、という雰囲気だったけど、僕には、これは、『出逢い』の映画とは思えなかったんだ。早く出逢わせたい、ともあんまり思わなかったし、だいたい、「こんにちは」なんて台詞無かった!?だけど、オモシロイものはオモシロイ。凄く良かった、と思うんだ。

まず、オモシロかったのは、映画の構造かな。最初、この映画は、モノクロで人の声はなし、音楽のみで始まります。最初のシーンは1900年を過ぎた頃かな、第1次大戦の頃なんだけど、そこから始まって、この映画は、この映画自体が撮られた1970年代まで続くんだけど、その映画の時代の技術に合わせて撮られているわけです。だから、映画の中の時代が進むにつれて、この映画自体も、モノクロで始まり、トーキーになり、カラーになり、と変って行く。これだけで、ワクワクしてくるけども、それだけがこの映画のオモシロイところじゃないよ。

この映画の主な登場人物は、もしろん、最後に出逢う男女なんだけど、男性の方は、監督のクロード・ルルーシュ自身と思われる人物で、若いうちは、かっぱらいだとか、そんな事ばっかりしていて、刑務所に入ったりするけど、だんだん映像の仕事にかかわる様になり、最後には映画監督になって、この映画を撮り始めるんだ。この映画の中で、この映画自体が撮影されるというワケ。

それから、オモシロイと思ったのが、もう一人の登場人物、女性の方が直面する悩みです。それは、いわば、資本家の悩み。彼女の父親は、ユダヤ人だけど、第2次大戦を巧く、くぐり抜け、靴を製造して大儲けした成功者で、彼女自身は、まあ、何不自由なく育ち、そして、激しい労働運動に資本家の側として直面することになるんだ。

そう言えば、この辺の事って、労働者の側から書かれたものなんかは、今までも目にした事があったけど、逆の立場からのものって、あんまり見たことないなあ、と思いました。

そして、最終的には、この映画は、未来のことを語って終わるんだ。その未来は、多少陳腐と言えなくもないけど、決して幸福な未来ではない。

多分、この監督は、人間とはどんなものなのか、もしくは、この世界がどういうものなのか、という映画を作りたかったのかな、と思います。または、自分が感じていることを描きたいということを、突き詰めていったら、そうなった、という感じなのかも知れません。

この、人間の世界には、大きな戦争だとか、大規模工業化だとか、それに伴う、資本家と労働者といった関係に代表される、要するに、豊かさの偏りだとか、そんな大きな流れがあり、同時に、人と人が出逢い、その子供が産まれ、産まれてきた人間がいろいろなことを感じたり、行動したりする、その両方が、ある意味等価に存在しているんだ・・・、とまあ、そんなことが、僕がこの映画を見て思ったことです。

そんな事を思わせる映画って、見たこと無い、でしょ?僕が知らないだけかも知れないけど。まあ、何にしても、凄くおもしろかったです。ここで、ビビらせて、ここで感動させて・・・、みたいな計算が行き届いているハリウッド映画なんかとは、全く違うオモシロさがあったよ。

この映画は、君と一緒に見てみたい映画の一つになりました。この映画を見て、君と語りあったら、それは、僕達が生きる、この世界の事であり、この世界の未来の事であり、そして、僕達自身の事なんだろうな、と思います。

そんな素敵な時間がいつか訪れることを願いつつ、今日はこの辺で終わります。

こんど、一緒に映画を見に行こう。