LM * The Letters about a MOVIE.

映画に関する君への手紙。

耳をすませば

前略、元気ですか?
この間、『Love Letter』の事を書いた時、図書カードの事をちょっと書いたと思います。

そしてね、極めつけだと思うのが、貸し出しカードだよね。いまどきの図書館では、こんなものを使っているところはもうないのかも知れない。
・・・
あれを見てその本を読んだ人々やその本が過ごしてきた時間に思いを馳せたりしたことない?
■LM * The Letters about a MOVIE. : Love Letter
→ http://miyadaic.hatenablog.com/entry/2005/07/16/054400

この、『耳をすませば』は、正にそんな風に始まる映画なんだ。

中学3年生の雫は、とても本好きな女の子。ある時、学校や図書館で、自分が借りた本の図書カードに、必ず同じ名前が書き込まれていることに気付く。自分が読んでいる本を、必ず先に読んでいるこの人は、いったいどんな人なんだろう…

それから、こんな会話も出てきます。

父 : わが図書館も、ついにバーコード化するんだよ。準備に大騒ぎさ。
雫 : やっぱり変えちゃうの?わたしカードの方が好き。
父 : 僕もそうだけどね。

雫のお父さんは、図書館で働いているんです。

さて、この映画、言わずと知れた、スタジオジブリ作品なんだけど、他のジブリ作品とちょっと違うような気がするんだ。なんだか、とっても素直な、ストレートな話。

他のはみんなファンタジーで、どこか違う世界の出来事だったりするわけだけど、この映画は、現実の世界を描いた、という感じが凄くします。この映画に出てくる街は、聖蹟桜ヶ丘という所だと言われていて、僕が住んでいたところからも結構近いんだ。オープニングで、オリビアニュートンジョンの歌うカントリーロードをバックに映し出される夜の街、そして雫が住む団地など、とてもリアルに描かれています。

それから雫が、合唱部の為にやっているカントリーロードの訳詩が、とても印象的。

コンクリートロード どこまでも
森を切り 谷を埋め
West東京 Mt.多摩
ふるさとは コンクリートロード

僕達の故郷は、そんな世界だといっているのかも知れないね。

でも、雫はこの街で、素敵な場所を見つけたり、大切な出逢いを経験するわけだから、こんな故郷も、捨てたもんでもないかも知れない。

ところで、この映画、そうやって雫が、聖司君という男の子に出逢った後は、彼女の成長に、ポイントが移っていくんだよね。微妙に説教くさい、という気もしないでもないんだけれど、聖司は既に自分の目標を定め、着々と歩みを進めようとしている。それなのに、自分には何もない!というわけです。

そうして悩んだ雫は、ついに、『自分を試す』決心をします。友達に相談したり、家族とけんかしたりしながらも、聖司のおじいさんの励ましもあり、まだ何者でもない自分から、変わっていく。うーん、説教くさい。

でも、このあたりの、自分だけおいていかれてしまう、といった焦りや、不安な気持ちや、目標を持ったとしても、それだけで、何もかもうまく行くわけもなく、自分の目標に対して、物理的、現実的な努力が必要なんだ、ということに直面したり、そのあまりの遠さに不安になってしまう気持ち。そんなことが、とても良く描かれていて、なんか見ていて、頑張れ、頑張れ!と思ってしまいます。

友達がこんなことを言ったりするのも、ちょっと面白いです。

雫の聞いてるとさ、相手とどうなりのかわからないよ。進路が決まってないと、恋もできないわけ?

さて、そんな苦労を乗り越えた雫に、どんなラストが待っているのか、それは、結構、衝撃的だよ。まあ、見てのお楽しみ。

この映画、もちろん、映画なので、そんなの現実には無いよ!ってなところもあるけれども、ジブリにしては珍しく現実を描いている、というか、こんな風に未来を夢見て、それに向かって進んでいったり、こんな風に人と出逢ってこんな風に恋をしたり、そう出来たらいいなあ、と思わせてくれる映画です。その為には、夢見て進んでいくことを忘れちゃいけないよ、って感じかな。

カントリーロードという歌も、僕はこの映画を見る前は、アメリカの田舎=駄目なアメリカの象徴のような気がして、全然好きじゃなかったんだけど、この訳詩は、現代を生きる僕達の歌、という感じになっていて、ちょっと良いかも、と思いました。

どんな挫けそうな時だって 決して涙はみせないで
心なしか歩調が速くなっていく 思い出 消すため
カントリーロード この道 故郷へつづいても
僕は行かないさ 行けない カントリーロード
カントリーロード 明日はいつもの僕さ
帰りたい 帰れない さよなら カントリーロード
■訳詩:鈴木麻実子 補作:宮崎駿

では、また手紙を書きます。
今度、一緒に映画を見に行こう