LM * The Letters about a MOVIE.

映画に関する君への手紙。

サマリア samaritan girl

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前略、元気ですか?
この前の日曜日、久し振りに映画を見て来ました。

サマリア」という映画です。
最近、いろいろな映画賞を取りまくりの、
キム・ギドクという、韓国の映画監督が撮った映画。

公式サイト
http://www.samaria.jp/

僕はこの監督の映画を見るのは、初めてでした。
今までにどんな映画を撮っていて、どんな風に、
評価されているのか、どんな作風なのか、全然知りませんでした。

この間、コーラスを見た時に、
この映画の予告篇をやっていて、見ようかな、と思ったのと、
映画館に着いた時、丁度これから上映、という時間だったのとで、
この映画を見たわけです。

ストーリーの表層だけ見ると、
援助交際する女子高生2人組と、
自分の娘が、売春していることに気付いてしまう父親の話。

と書くと、韓国の現代風俗を描いたのか、
と思ってしまうけれど、全然そうではありません。


サマリア」というのは、
聖書に出てくる「サマリアの女」から取っていて、

公式サイトから
http://www.samaria.jp/

罪の意識のために隠れるように生きてきたが、 イエスと出会い罪を意識することで 生まれ変わったように信心深く生きた人物。 聖書にはイエスの深遠な教えの受け取り手が、 世間的に蔑まれる女性であるという逆説がしばしば登場する。

なんだそうです。

見ている途中から、
これは、現在を舞台にした、
聖書の寓話の様なものなのかな、
と思い始めました。

キリスト教には、まあ、あんまり縁が無いんだけれども、
僕が思うに、神様は結局のところ何もしてくれない、
そのことが、僕達人間を様々に苦悩させ、様々な行動に走らせ、
結果、様々な物語が産まれてくることになる。

現在を舞台にしていることは、
現在の人間に特有のことを語っているのではなく、
この現在の人間にさえも、起こり得る普遍性、
を示しているのではないか、なんて思いました。

映画は、3部構成になっていて、
それぞれ、バスミルダ、サマリアソナタ と名付けられています。

■バスミルダ

-インドにバスミルダという娼婦がいたの。 その娼婦と寝た男は、仏教信者になったんだって-
ヨーロッパ旅行の為に、売春を繰り返すチェヨンと、
客との連絡や、チェヨンが稼ぐお金の管理をするヨジン。

お金の為に、男と寝るチェヨンは、
穢れていると言えるけれども、その笑顔は無垢である。
ヨジンは、チェヨンの行為に加担しながらも、
客となる男たちに強い、嫌悪感を抱いており、
自らの行為に対する罪悪感も持っている。

チェヨンが無垢な存在であるのに対して、
ヨジンは、線を引く人間である。
ヨジンの方が、却って、
常識といったものに、穢れているとも言えるのか、
と思いました。

サマリア

チェヨンを失ったヨジンの元には、
彼女の客達の連絡先を書いた手帳と、
彼女が稼いだお金が残される。
ヨジンは、チェヨンが寝た男一人一人と、
連絡を取り、彼らと寝て、
彼らが払ったお金を返していく。

こうして、チェヨンの軌跡を辿るヨジンは、
そうすることで、チェヨンと同化し、
自らが引いていた、常識という線からも自由になった、
と思いました。そうなったヨジンはとても幸せそうでした。

ソナタ

偶然、ヨジンの行為を目撃してしまった父親。
そのことで、彼は予期しない苦悩へ突き落とされる。
そして、彼のとった行動は・・・

ヨジンの父親は、
刑事という設定になっていて、
女子高生のチェヨンやヨジンと較べて、
非常に社会的な存在です。
だからこそ、彼の行動は、
ある意味的外れな方向に暴走して行ったのかな、
と思いました。

うーん、この映画の感想としては、
ちょっと的はずれなのかも知れないけれど、

社会的に、悪とされている行為を、
無垢な存在が、その無垢さ故に、
ストレートに行うことが可能であり、
社会的な存在が、その社会性故に、
ねじれた行為を行ってしまうことがある、

と、そんなことを思いました。

映画のラストは、とても感動的で、
映画館のそこここから、鼻を啜る音が聞こえていました。

それにしても、
見ごたえのある映画でした。
言葉は悪いけど、その辺の監督が撮ったら、
残酷の為の残酷、不条理の為の不条理、
といった感じになりそうなものだけど、
映画を見る僕達を、
そういう表層だけに留めておかない力がありました。

それから、この映画を見ている間、「音」がとても気になりました。
この監督の手法なのか、
それとも、偶然そうなったのか、
この映画の特徴と言えることでもなくて、僕がそう感じただけなのか、
よくわからないけれども。

映画の中で、不快な音が繰り返される。
服がこすれる音、
頭蓋骨が砕ける音、
石を打ちつける音、
車のドアが閉まる音、
そういった、不快な音が強調され、
その不快さにどんどん引き込まれていく気がしました。

というわけで、
ずいぶん難しいなという感じがした映画でした。
難しくて、この手紙を書くのにも、時間がかかってしまったよ。
でも、確かに見た価値がある、と思う映画でした。
また、見たい、と思っています。

それでは、また手紙を書きます。
今度一緒に映画を見に行こう。

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Swing des Spoutniks:『サマリア』~<奇蹟>の映画~
http://blog.livedoor.jp/pfwfp/archives/22685784.html

藍空:「サマリア」/「サマリア」での男と女
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BLOG IN PREPARATION:「サマリア」 死と再生の旅
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映画大陸:『サマリア
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