LM * The Letters about a MOVIE.

映画に関する君への手紙。

ピアノ・レッスン THE PIANO vol.002

昨日の続きです。

今日も元気ですか?

僕は、風邪をひいてしまったようで、

早めに仕事を切り上げて、帰って来ました。

昨日は、ピアノ・レッスンのことを書きました。

でも、この映画のことではなくて、僕が子供の頃に

ピアノを習っていた話にすっかり終始してしまいました。

それで終わりにしても良いんだけど、

僕は、この映画にはちょっと不思議な感動の仕方をしたんです。

だからその事を少しだけ書いておきます。

僕は、この映画は、

劇場で公開された時に見ました。

僕達がまだ学生の時、確か、大学の3年か4年の時です。

もう君と知り合っていたけど、君にこの映画の話をした覚えがない。

と言って、別に君に秘密で、

別の女性と見に行ったりしたわけじゃありません。

当時から仲の良かった、

S田君に誘われて見にいったんです。

この映画を選択したのも彼だったと思います。

S田君には君も一度だけあったことがあるよ。

僕達があの四○通りを歩いていた時に、

すれ違った僕の友人が声をかけてきて、

少ししゃべった事があったでしょ?彼です。

まあ、そんなことは置いといて...

その頃、僕は、いつもいつも、

お尻の下を、冷たい風が通り過ぎるような、

落ち着かない日々を送っていました。

もうそろそろ、就職活動をしなければ、という時期だったんだ。

でも、いったい自分が何をどうしたいのかさっぱり分からん、

というそんな状態で、とても憂鬱でした。

なんて言うんだろう、

未来と将来の具合が見えないせいで、

プレッシャーのようなものが重くのしかかっていて、

それを打開するには、自分が何か具体的に、物理的に、

動かなければならないんだ、ってことも分かってる。

でも、なかなか、

具体的に考え行動することができず、

とにかく落ち着かない、という感じでした。

どうせ俺なんか大したことできやしない、なんて思ったりもしてたし。

そんな重苦しさの中でこの映画を見に行ったんです。

そして、始まった映画は、何やら重苦しい感じ。

話すことができない女性の主人公が、

船にのって、ピアノと共に、オーストラリアに着きます。

そして、彼女の夫となった男と、

もう一人の男との間で、どろどろの三角関係が始まります。

この主人公は、話すことが出来ず、

ピアノを弾くことだけが、彼女の表現です。

三角関係というより、

ピアノを加えた四角関係という感じだったような気もします。

でも、実は僕、あまり覚えていません。

現実生活のプレッシャーのあまり、

集中して見ていなかったのかも知れません。

僕がはっきり覚えているシーンは一つだけです。

もう映画の終わる寸前、

ピアノと一緒に海に沈んでいく主人公が、

思い直し、生きることを選び取るシーン。

このシーンでは、

その時、自分の心の深いところの何かが作用した

というような、主人公のナレーションが入るんだ。

この何かによって、

主人公はピアノと共に海に沈むことを止め、

生きることを選ぶんだけど、

このナレーションを聞いた時、

僕にもその何かが作用したような気がしたんです。

それまで、映画を見ている間も、

相変わらずお尻の下をスースー風が通り抜けるような、

落ち着かない感じが抜けなかったんだけど、

この瞬間、確かに何かが変わった気がしました。

まあ、錯覚かも知れない。

錯覚だよね。絶対。

その時何かが変わった様な気がしたとしても、

実際のところ、現実は、何も変わってなんかいないわけだし。

ただ、僕の気持ちは、あの時、何かが変わったと感じたんです。

それが忘れられません。

今日は、これで終わりにします。

いつか、この映画をまた見ることがあったら、

今度は、ちゃんと見ようとは思っています。

では、また手紙を書きます。

今度一緒に映画を見に行こう。