LM * The Letters about a MOVIE.

映画に関する君への手紙。

トニー滝谷

前略、元気ですか?

こちらは今日も寒かったです。

そっちはきっともっと寒いんだろうね。

温かい飲み物でも飲みながら、読んで下さい。

今日は、仕事の合間を縫って、

映画を見てきました。「トニー滝谷」という映画です。

原作は村上春樹の短編小説です。

村上春樹と言えば、

僕の高校時代に、あの赤と緑の装丁の「ノルウェイの森」が出て、

ちょっとすかした女の子達が一生懸命読んでいたのを覚えています。

その頃の僕は君も知っての通り、体育会系運動部所属。でも隠れ活字中毒

ヘッ、あんなもん読んで何か分かった気になってやがるぜ!

とひねくれていました。

実は、その女の子に、うちの部のマネージャーになってよ、

と言って、断られただけだった。若気の至りだね。


僕が村上春樹の小説で一番好きなのは、

ダンス・ダンス・ダンス」という作品です。

村上春樹の登場人物って、

普遍的に正しいことを追い求めるのは、

あきらめている、というか、最初からそうしようと思わない。

そのかわり、自分の中にきまり、

というか原則の様なものを作り、

それにもとづいてひとつひとつ行動するというのが僕の印象です。

自分だけの規律を守るわけだけど、

自分の規律の為なら、他人にどんな迷惑をかけようと顧みない、

というわけでもなく、そもそも、彼らは他人に迷惑をかけるようなことを、

発想しない、という感じかな。

以前に村上春樹が誰かと対談していて、

プロ野球の話になり、あるチームを応援しているけれども、

それはそのチームが魅力的だったり、誰か好きな選手がいる、

というわけでもなく、ただ地元だから応援すると言っていて、

相手の人が、ふーん、変な奴、という感じだったのを、

読んだような覚えがあるんだけど、自分の中の規律というのは、

正にそういったことかな。


そういう風に生きていると、

自分の規律だけに、従っているわけだし、

積極的に他人にかかわって行くわkででもないので、

結果として、世の中との接触というか実感が希薄になってきます。

ダンス・ダンス・ダンス」は、

そうなってしまった主人公が、世の中との接点を取り戻す物語だと、

僕は思うんだ。

世の中との接点を取り戻す為に、

ひとつひとつ、手順を踏んでいく。

まるでダンスのステップを踏む様に。

これに対して、

トニー滝谷」は、喪失の物語です。

孤独に育ったトニー滝谷が、結婚することで、

一瞬、自分以外との接点を取り戻すが、最後にはまた失ってしまう。


この物語がどういう風に映画になったんだろう?

と興味津々で見に行きました。


映像は、彩度(でいいのか?)を抑えた色調で、淡々とした感じでした。

たまにコマーシャルや広告で、

白や淡い青を基調としたちょっとおしゃれな感じ

というのがあると思うけど、

あれから、見る人を消費へと誘う要素、

ちょっとしたおしゃれ感や、

目を引きつけるワンポイント、

といったものを排除したとでもいうのかな。


そして、紙芝居のような、

左から右へ移動していく映像の多用。

ナレーションの多用。

登場人物がナレーションの一部をしゃべったりします。


こういった工夫は、この映画を、

小説を読んでいるかのような感じにする為に、

使われていて、それは成功していると思います。

小説を読む時って、

ある程度、映像で想像しながら読むよね。

かと言って、書かれている全てを映像で想像して読むわけではない。

この感じを、ナレーションの多用と、

主張し過ぎない映像が、うまいこと作用して、再現している。

でも、僕は思いました。

なんだこれ。小説読んでるのと変わらないゾ。

ちょっと成功し過ぎ。

原作の内容をまだ覚えていたし、原作と違うのは、

「とりたてて美人というほどでもない」筈の奥さんが、

宮沢りえで、壊れそうで痛い程、美しいじゃないか?

というくらいか。

これだったら、コーヒーでも飲みながら、

原作読んだ方が良かったかも、なんて・・・


でも、これで良いのかも知れない、とも思う。

今回は原作を読んでいたからこう感じたけど、

別に、小説を読む様な映画があっても悪くないし。

そういう映画としては十分かな、と思いました。

ところで、「トニー滝谷」は、

喪失の物語だと書きましたが、

映画はちょっと違った終わり方をします。

喪失のその先に垣間見える希望、をちょっとだけ示した

とも思えるし、逆に、

ちょっとだけ見えた希望も、やっぱり失われた、とも思えます。

どう?

ちょっと見たくなってきた?


では、また手紙を書きます。

今度、一緒に映画を見に行こう。


公式サイト

http://www.tonytakitani.com/


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