LM * The Letters about a MOVIE.

映画に関する君への手紙。

しあわせのかおり

前略、元気ですか?
最近は、少し寒い日が増えてきたけど、君は風邪などひいていないだろうか?僕は、それなりに元気です。いろいろ大変なこともあるわけだけども、なんとかやっています。

この間の休日、少し暇だったので何か美味いものを作って食べようと思い、でも、まずその心理的準備だと、「しあわせのかおり」のDVDを出してきて、改めて見てみました。

この映画、君は知っているだろうか?料理が、むちゃくちゃ美味しそうなんだ。調理シーンも、出来上がった料理もとても美味しそうで、食べたくなるし、自分も作ってみたくなるよ。僕はこの映画を見て、まず自分も料理するために、紹興酒を買いに行きました。

映画の内容は、中谷美紀演じる、シングルマザーの主人公が、会社勤めを辞めてある中華料理店で修行をするというものです。会社を辞めるという大きな決断、中華料理店主の老いていく苦しみ、若い男子の恋心、波乱と中傷、といったいろいろな要素が組み合わされた話になっています。そこに、中谷美紀藤竜也八千草薫のちょっと清々しいような演技が合わさり、爽やかで気持ちの良い映画だと思います。

欠点と言えば、主人公や店主の苦しさや切実さが、いまひとつ伝わらないことかな。いろいろ大変なことが起きているけど、それが切実さや深刻さをあまり強調せずに描かれているので、なんとなくボヤっとした感じがして、世の中、そんな上手くいかないし、そんな綺麗事で済まないよ、という感想を持つ人もいそうです。

僕も、最初にこの映画を見た時は、主人公が会社を辞めたところで、そんな簡単じゃないよ!と思いました。映画の中では、例えば会社を辞めて中華料理店を継ごうとする主人公が、それで娘と親子2人生活できるのか、とかそういったことを真剣に検討してみたようにも見えず、ただ、料理を追求することの楽しさや、店主の素晴らしい料理を引き継ぎたいという気持ちや、会社の仕事に嫌気がさしたりとか、新しいことを始めるワクワクする気持ちとか、そんなことだけで、決断したように見えたんだ。

これはその頃、僕自身も仕事に嫌気がさして、もう自分の仕事に積極的に取り組めないな、と思って悩み、でも、仕事を辞めたら収入が無くなってしまうので簡単に辞められないな、と思っていたのが、原因かも知れないと思います。

でも、あれから数年経った今、仕事を辞める決断なんて、できるだけ簡単にした方が良いな、と思っています。誰でも、どうしやっても変えられないものってあるよね。家族だとか、年齢や健康だとか。それから、この時代に生きていることだとか、どうやっても変えることは出来ない。それに較べれば、仕事を変えるなんて、随分簡単そうじゃない?少なくとも、今の仕事を続けなくちゃ生きていけないって思っているより、仕事は変えられるはずだ、だからチャンスが有ったら変えちゃうぞ、とかそのチャンスを作るために勉強しちゃうぞ!って思っていた方が自由な感じがすると思うんだ。

この映画は、主人公が仕事を辞めて中華料理店をやって行く決心をしたことで、主人公自身と、自分の老いと健康から現実に囚われていた店主が、少しだけ自由になった、そんな映画なんだと思います。いろんなことが、なんとなくほんわかと描かれていて不満と言えば、不満だけれど、この映画を見ると少しだけ元気になれる気がします。美味しそうだしね。

そんなわけで、この日は、紹興酒で味付けして中華料理を作って食べて、自分の自由さについて思いを馳せてみた、そんな1日でした。

君は、どのくらい自由に暮らしているのかな。また、手紙を書きます。今日は、このへんで。

日本版劇場オリジナルポスター(大きいサイズ)★『しあわせのかおり』 /中谷美紀、藤竜也 しあわせのかおり [DVD]